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5.11.2015

運命、偶然、または必然






好きだ。
細部に至るまで。
冒頭のモノローグと共に多様な新旧の建築物が映し出されるシーンは
まるで自分が今ブエノスアイレスを歩いているかのような錯覚に陥らせてくれた。旅をしているような。

MartinとMarianaが偶然同じタイミングであの窓から顔を覗かせるところも好き。
私もたまに、今この瞬間に自分と同じ音楽を聴いたり映画を見たりしている人ってどれくらいいるんだろう、なんて妄想をするからこういうのは浪漫があっていい。

それにしても人間って、不思議だ。
ほんのちょっとした出来事がきっかけで、さっきまで出来なかったことが自然と無意識的に出来てしまったりするんだもの。
あんなにエレベーターを避けていた閉所恐怖症のMarianaは、
たまたま窓の外を見て発見したウォーリー(そつくりの男性)めがけて一目散にあっけなくエレベーターに乗り込んでしまう。(Mrianaの愛読書は"ウォーリーを探せ"。)
これは映画だからこんな風にうまくいくんだよ、なんて言われたらそれまでだけども。
現実もさほど大差ないのではないだろうか。
人間なんて、そんなものだ。
些細なことで壊れるし、
些細なことで回復する。

なんとなく、借りてみてよかった。
好きな作品の仲間入り。随所に仕掛けられた演出にもついニヤついてしまう。
Marianaの部屋も趣味も好きだし、主観的に見てなんとなく、自分と似ているような気がした。性格とか、性質みたいなもの。


近くにいる人ほど遠いものだ。
それこそ、何かきっかけが無ければ永遠に話すことすらない、なんてこともあるかもしれない。というかその方が圧倒的多数であろう。
この二人も、すぐ近くにいるのになかなか出会えない。それを私達は客観的に眺めているんだからもどかしくてたまらない。
でも、いまの世の中はまさにこれだ。
デジタル化する世界。
スマートフォン、PCに支配された世界。
皆が画面に夢中で、隣の人の顔なんて見もしない。興味があるのは画面の中だけ。
そこに全てを求め全てを捧げている人々で溢れかえっている。
なんて陳腐で廃退的で空虚な世界だ。
その俯いた顔を上げて周囲を見回してみれば、目の前に広がる日常風景が存分に私たちを楽しませてくれるというのに。
SNSに夢中になっている間に、目の前で奇跡的なワンシーンが繰り広げられているかもしれない。

私は、インターネットが普及する前の世界に少し憧れてしまう。要は無い物ねだりというやつだ。
もちろん、今のこの世の中は便利なことこのうえないしこれから更にそれは増していくのだろう。
買い物、仕事、趣味、娯楽、、、何でもこれさえあれば済んでしまう。
でも、なんだか侘しい。
中身は空っぽのような気がして、夢中になってネットサーフィンしていた時間はなんだったのかと虚しくなる。
もっと、そこに頼らず人と出会い、話し、喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだりしたい。
シェアするボタンをむやみやたらに押すのではなく、
同じ空間で同じ空気をシェアした方がきっと何倍も共鳴できる。
一切を排除すべきだなどとは言わない。
現に私もインターネットは生活に欠かせないものとなってしまっている身だ。
ただ、使い方を少し変えてみるだけで
体にも心にも朗らかな時間を増やせるのではないだろうか。
世界には勿論インターネットなんぞ開通していない地域が数多存在する。
しかし、いまやありとあらゆる場所に電波が拡散しつつある昨今、何も通じない空間に降り立つことは逆に難しくなっているのではないか。
私はときたま考える。
電波を一切遮断された空間で過ごせたらどれだけ解放されるか。
数分おきに仕事先から急用で連絡が入ったりしていないかとチェックする必要も、大した用でもない電話にいちいち応答する必要もない。
スピーカーから聞こえる音楽ではなくて、耳に直接届く生の音楽を愛でる。
テンキーから生み出す言葉の羅列で顔の見えない相手と会話するのではなく、近くで肩を寄せ合いながら目を見つめながら相手と触れ合いながら、自然に胸の内から溢れる言葉で会話を心ゆくまで楽しむ。
一昔前では当たり前であったその日常がどれだけ素晴らしいものか、今になって気づかされる。
とにかく、デジタルの中で暮らせば暮らすほどに、アナログなものを求めてしまう。
時代と環境の違いで、この逆現象も発生するのだろう。
映像物はフィルムで観たいし、
小説や雑誌なんかは紙の印刷物で読みたい。
連絡手段は手紙が一番好きだ。
なんせじっくりと言葉を選んで紡ぎだすことができるし、何より温かみがあるではないか。既読マークなんか気にせず、ゆっくり気長に返事を待つくらいが私にはちょうどいいのだ。

結論、やはり無い物ねだりの連続だ。



何はともあれ、
建築物が好きな人、
運命的な偶然の出会いに憧れる人、
ちょっぴり変わったものに惹かれる人にはぜひこの映画を観ていただきたい。







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